2023.07.08最終更新
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直流送電の怪説 - 鹿の骨

 直流送電に関する色々

日本国内には数か所ですが交流送電では無く直流送電の部分があります。 有名なのは本州と北海道を結ぶ部分ですが、この直流送電に関して次の様な怪説があります。



送電端も受電端も大量の調相設備が必要

 何故この様なことが起きるのかを「怪説した参考にならない書」が沢山ありますが、普通に読んで「ナルホド」と思うものに出会ったことがありません。

普通だったら「何故そういうことになるのか」を書きますがドー読んでも「必要だからそうなる」としか書いていません。 当方の読解力不足が原因だとも思いますが、解らんものはワカラソ!です。 文句ばかりを言っていてもショーが無いので早速怪説に移ります。

先ずは・・・大前提の話 意外と書かれていないことなのですが、直流云々の前に知っておきたいことがあります。 これは「同時等量の原則」です。 発電と需要が瞬時瞬時単位で同じで無いといけないという原則です。 つまり 需要≡発電 です。

これは有効電力に限った話では無く無効電力にも当てはまります。 仮に100[kVA]80[kW]60[kvar]pf80[%遅れ]の負荷が有ったとしたら、80[kW]の有効電力を何処かの発電機が発電して供給しているだけでは無く何処かの発電機或いは調相設備(←これ重要)で60[kvar]の供給をしているということです。

有効電力P1[W]の需要が有った時は発電機でP1[W]の発電をしていないとイカンと言うことです。 同時に無効電力Q1[var]の需要が有った時は発電機又は調相設備でQ1[var]の供給がないと辻褄が合わないということになります。

有効電力の需給はエネルギーバランスですから理解しやすいのですが、無効電力の需給バランスは理解し難い事項だと思います。 又無効電力は発電機以外にも調相設備で需給調整が出来るのも重要な事項です。 因みに有効電力の需給バランスが崩れると周波数が乱れ、無効電力の需給バランスが崩れると電圧が乱れます。

直流送電と交流送電では次にような差異が有ります。

その1 直流送電は有効電力しか送電できない。

参考にならない書は何故これを最初に書かないのか実に不思議です。 当たり前の話ですが、直流に「無効電力」という概念は理論上有り得ません。 電力[W]=電圧[V]×電流[A]の関係式は直流でも交流でも同じ式です。

しかし、交流は電圧も電流も時間を変数とする三角関数です。 その結果交流は有効電力と無効電力が発生します。 直流に三角関数は出て来ません。←当たり前! 直流に無効電力はありませんから無効電力を送れませんし受けられません。

しかししかし、困ったことに負荷は有効電力と無効電力の両方を必要としますから両方送らないといけないし受け取らないといけません。 ドーすんだぁ〜と言うことになります。

その2 直流は電圧の高い方から低い方に電力潮流が起きる。

これも当たり前の話ですが直流回路で電流は電圧の高い方から低い方に流れます。 一方の交流では意外なことにこの原則が当て嵌まらない場合があります。 典型的なのは「フ」+「ェランティ」効果ですが、この場合送電端より受電端の方が電圧が高くなります。 (負荷電流に依る電圧降下で電圧が上がると言う珍事)

直流送電の送電端は受電端より電圧を高くしないと電力を送れません。←重要! これも意外と書いていない参考にならない書が多いのは何故?

その3 電力円線図を学ぶと解るが、母線電圧を維持する為には負荷の増減に応じた然るべき力率が決まっている。

詳しくは電力円線図を学習して欲しいのですが、一般的な受電端変電所で有効電力P[W]及び無効電力Q[var]を受電して受電端電圧をVr[V]に保つためにはQ[var]の値は決められた値になっていないといけません。 有効電力P[W]は何が何でも受電しないと洒落になりませんが、実はP[W]に付随した無効電力Q[var]も負荷が求める好き勝手な値には出来ません。 当然負荷の無効電力は負荷側の都合で勝手に決まりますから受電端母線上の無効電力に過不足が生じます。

負荷無効電力が規定値より不足(負荷不足)すれば母線電圧が規定値より上がり、過剰(負荷過剰)が有れば下がります。 この過不足を調整する為に変電所には調相設備が結構な容量で設置されます。 また丁度良い容量にする為に可変容量のRCやSVRやTVRが設置されます。 (RC、SVR、TVRは各自で調べて下さい。)


さて此処でやっと本題です。

その1

仮に本州から北海道に直流送電することを想定し、本州側の変電所で何が起きるのかを考えます。 送り出し変電所の電圧をV(本)とすると北海道側の電圧V(北)の関係は下記になります。   V(本)>V(北) このV(本)の電圧は規定値よりズレると洒落になりませんので厳守すべきものです。 電力円線図の解説で書きましたが、この母線電圧を保つ為には決められた無効電力Q(本)が必要です。

通常の交流変電所は負荷の無効電力の過不足を保障する(差分の保障)だけの調相設備容量で済みますが、この場合はそうはいきません。 如何せん本州側変電所の二次側は直流送電で有効電力しか送れませんから負荷力率は1.00で、無効電力はゼロ[var]です。

従って然るべき値になっていなければいけない無効電力の全量を保障する必要があります。 一般的に負荷は遅れ力率ですから本州側には大容量の無効電力負荷=分路リアクトルが必要になります。 これを設置して既定の無効電力を消費しないと規定の送り出し電圧になりません。 自動的に「大容量の調相設備が必要」と相成ります。

その2

今度は受ける側の北海道の話。 当然の話として北海道側の変電所は本州側から直流送電で有効電力P[W]の供給を受けますのでそのまま負荷に給電できます。 しかし、負荷は有効電力と無効電力を消費する交流負荷です。

有効電力は本州側から送られてきたものを渡せば良いのですが、無効電力は本州から供給されません。 此処で「無い袖は振れぬ!」は通用しません。 負荷が要求するものを供給できなかったら「同時等量の原則」が成立しません。 従って北海道側の変電所で何が何でも無効電力を発電する必要があります。

ここで登場するのが調相設備です。 一般的に負荷は遅れ力率ですからここにコンデンサを大量に並列すると「遅相無効電力を供給」できます。 「進相無効電力の消費≡遅相無効電力の供給」を理解しましょう。 自動的に「大容量の調相設備が必要」と相成ります。


この様に送受双方に大容量の調相設備が必要になりますがその時々の都合により送電受電の相方が変わります。 従って進相及び遅相双方の調相設備を抱える羽目になります。

以上。
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